スティーブン・セガール
映画史上最強の男スティーブン・セガールの作品について語りたいと思います。
刑事ニコ 法の死角 / Above the Law (1988)
- 監督… アンドリュー・デイビス
- 共演… パム・グリア ヘンリー・シルバ シャロン・ストーン
監督のアンドリュー・デイビスはとにかく生まれ故郷シカゴを舞台にするのが好きで、今でこそ大味で大雑把な、いかにもハリウッド的アクション監督に堕ちてしまったけど、80年代は『野獣捜査線』『ザ・パッケージ/暴かれた陰謀』などの地味なアクション・サスペンスに本領発揮の職人でした。
警察の汚職とか権力の闇とかそういうものが好きみたいで、チャック・ノリスがロボットを操縦して暴れる『野獣捜査線』も本来ならネアカな作品になれたものを、ドス黒く後味の悪い作品に仕上げてしまいました。そういえば後年、ハリソン・フォード主演の大作『逃亡者』でも、シカゴ市警をすぐに発砲したがるトリガーハッピーな人々として描いています。
期待のニュースターの筈なのにどういうわけか新人離れしたドス黒い雰囲気のスティーブン・セガールがデビューを飾るのに相応しい監督と言えなくもない。
結果として、この監督の抜擢は正しかったと思います。華がなくて爽快感の乏しい地味なアクションですが、ヘタな飾りがないだけに主役のセガールのしかめっ面から発散されるブラッドサースティな殺気は尋常でなく、この人は本当にヤバいんじゃないの?と心配するほどに恐ろしい印象を全世界の観客に叩きつけました。デビュー戦としてはじゅうぶんに及第点と言えましょう。あ、華がないと言いましたが、まだ若いシャロン・ストーンが綺麗です。うっとりするほど美しい。パム・グリアが同じ生物なのかと気の毒になるくらい。
ところでセガールは脇役の下積み時代がないんですよね。これと同時期の『ダーティハリー5』を見たワーナーの上層部が新人オッサン・アクションスターの発掘を急いだせいでしょうか。
ハード・トゥ・キル / Hard to Kill (1990)
- 監督… ブルース・マムルース
- 共演… ケリー・ルブロック ビル・サドラー フレデリック・コフィン
警察汚職という直球勝負、しかしヒットを打ったのは脇役のオマリーだった。「この警察の面汚しが!」と叫んで子供を守り、殺られる彼はじつに格好よかった。ちなみにオマリー役のフレデリック・コフィンはテレビ映画『プライベート・アイ』で"警察の面汚し"を演じてます。
前作とは違うニュースターの魅力を…という思惑があったのか、セガールにしては珍しくベッドシーンがあります。それも2回。2回目の相手が一時期セガールの奥さんだったケリー・ルブロックです。実生活ではセガール拳で虐待されていたそうで、助けてやれよジーン・ワイルダー!みたいな気分になります。
死の標的 / Marked for Death (1990)
- 監督… ドワイト・H・リトル
- 共演… ベイジル・ウォレス キース・デビッド トム・ライト
この頃から徐々に、製作側も観客も(そしてたぶん本人も)セガールにフローレス殺戮モンスターの可能性を見出し始めます。
シカゴでジャマイカ人を相手に暴れている主人公はすでにDEAを辞めているので、民間人というかプー太郎です。一種の自警団モノとも言えますが、いくら私怨が絡むとはいえジャマイカにまで殴り込んで麻薬組織を壊滅する伊達邦彦級の行動力がすごい。怪しい武器商人から消音ライフル買ったり、ガレージでダムダム弾作ったり、もう善玉キャラの規格から大きく逸脱してます。スクリューフェイスとの2回目の決闘に至ってはあまりに過激なためテレビ放映でカットされたらしいです。必見。
高級デパートの乱闘も楽しい見せ場のひとつ。いかにも高級そうなデパートで、小汚いジャマイカン数人とセガールが闘う、というかセガールが一方的にいたぶるのですが、高級な雰囲気にまるでそぐわずにバトルってる両者は、デパートに来ているハイソな人々から見れば所詮は同じ種類の下等な人間なのだ、みたいなことを言いたげな演出がたまりません。
なおセガール&キース・デビッドと途中から一緒に行動するトム・ライトは刑事役がじつに似合う人で『バーバーショップ』でもいいとこ取りでした。
アウト・フォー・ジャスティス / Out for Justice (1991)
- 監督… ジョン・フリン
- 共演… ウィリアム・フォーサイス ジェリー・オーバック ジーナ・ガーション
前作『死の標的』でたしかな手応えがあったのでしょうか、この作品では「いかに残虐に闘うか」を真摯に追究しています。
ビリヤードの玉にタオルを巻いて相手の顔面を殴りつけたり、中華包丁で敵の掌を壁に固定したりします。相手がダン・イノサントだろうとまるで容赦なし。
自宅を襲撃しようものなら逮捕なんて生やさしいことしません。問答無用で殺します。たとえ相手が武器を捨てて降伏しても。
雑魚のチンピラ共を倒す!倒す!倒す!しかもえげつない方法で。これが見ていてじつに気持ちいいのだな。
クライマックスのリッチー戦はいたぶりまくってもうおなかいっぱい。フライパンで敵の頭をゴーンと殴ったりします。冗談か本気かもうわからねえです。ボスキャラとの闘いでここまで一方的に痛めつける主人公は他にいません。
なお本作には出世前のジョン・レグイザモがチョイ役で登場するらしい。どこに出てくるんだろ?
沈黙の戦艦 / Under Siege (1992)
- 監督… アンドリュー・デイビス
- 共演… トミー・リー・ジョーンズ ゲイリー・ビジー エリカ・エレニアック
地味な殺戮ヒーローとしてB級街道をひた走って、もしかしたらそれで終わっていたかもしれないセガールだけど、この作品で日陰から明るい太陽の下へぴょーんと跳び出した、そんな意味でモニュマンな作品です。
当時、劇場へ観に行った友人は「映画館、大混雑だよ!並んで待ってる人々が建物をぐるっと1周してたよ!」と興奮気味に語っていたのでかなりヒットしたのでしょう。
80年代末に端を発する、いわゆるダイ・ハード・アクションというジャンル。このジャンルのフォーマットに殺戮ヒーローをはめ込んで、テンパった状況をマイペースの残虐野郎(とさらにマイペースのプレイメイト)が打開する様子はやはり面白い。ハイテク・テロだろうと最終決着はナイフ1本、という潔さにしびれました。
沈黙の要塞 / On Deadly Ground (1994)
- 監督… スティーブン・セガール
- 共演… マイケル・ケイン ジョーン・チェン ジョン・C・マッギンリー
成功を積み上げてきたセガールが、ふと立場を利用して説教をしたくなったのでしょう。この作品については色々な人がさんざんツッコミを入れているので俺は遠慮しておく。ま、今にして思えばワーナーで末長く、ご機嫌よろしくお仕事をしていただくために周囲がお膳立てした文字通り"ガス抜き"だったのかな、と。
暴走特急 / Under Siege 2 (1995)
- 監督… ジョフ・マーフィ
- 共演… エリック・ボゴジアン キャサリン・ヘイグル エヴェレット・マッギル
これをセガールの最高傑作に挙げる人が多い。『キートンの大列車追跡』『バルカン超特急』『大列車作戦』『大陸横断超特急』『シベリア超特急』など、鉄道を舞台にしたサスペンスやアクションというのは人気のジャンル。高速スクロールする風景の車外と一種の密室である車内を対比させるダイナミズムとか、あるいは観客の"旅に出たい気持ち"をお手軽に充足させる映画ならではの醍醐味が人気の要訣か。
凶暴な悪党が乗っ取った列車に、もっともっと凶暴なコックが乗っていた!
シリーズ化でキャラが固定されたことにより余計な説明などなく、どうしようもなく強いライバックがせつない抵抗を試みるテロリストをひとり、またひとり倒していきます。『13日の金曜日』みたいな映画をずっと殺人鬼の視点で撮ったらどうなるだろうか?といった趣。
乗客の中にライバックがいる、と知ったときのテロリスト達の落胆ぶりが全てを物語ってます。こんなヒーロー、他にいますか?
エグゼクティブ デシジョン / Executive Decision (1996)
- 監督… スチュアート・ベアード
- 共演… カート・ラッセル ジョン・レグイザモ ハル・ベリー
これについては何も知らないで見た方がいい。よって何も語りません。
"いくら"歌詞
グリマーマン / The Glimmer Man (1996)
- 監督… ジョン・グレイ
- 共演… キーネン・アイボリー・ウェイアンズ ボブ・ガントン ブライアン・コックス
今までずっとワンマン映画で添え物程度の相棒しかいなかったセガールだが、本作でバディ・ムービーへの道を拓く。
おもしろ黒人との珍奇なコンビが当時流行った『セブン』風異常殺人の謎を追います。しかし手がつけられないほど凶暴なのは異常殺人犯よりもセガールの方でしょう。クレジットカードを使って瞬時に3人殺します。けだるいジャズの流れる高級レストランで大乱闘して店を潰します。車に乗せられ拉致されている分際でやけに偉そうにして、拳銃のグリップで運転手を死ぬまで殴り続けます。
クレカ3人殺しのシーンで気付いたのですが、セガールは蹴りが苦手、というか足が上がらないようです。身体が硬いのでしょうか。
特筆すべきはキーネン・アイボリー・ウェイアンズの相棒。セガールを引き立てるのみに徹するでもなく、セガールを圧倒するほど目立つでもなく、セガールには期待できないひょうきんな部分を見事に埋め立てます。事件の捜査を進めるにつれ、地味に友情をはぐくむあたりはこのジャンルの王道。あるようでなかった、セガールの唯一の正統派バディ・ムービー。
キーネンが映画館で『カサブランカ』を見ながら泣いているのをセガールに見つかり慌ててあくびしてごまかしたり、鹿のペニスをごっそり買い込んだのを自宅(焼け跡)で見つかって「無料サンプルだ」とむなしく主張したり、とにかくこいつはもう最高。
ところでアメリカの大都市にはクラシック専門の映画館というのがあるみたいで羨ましい。『ファール・プレイ』や『ウディ・アレンの重罪と軽罪』にもこういう劇場が出てきますよね。
沈黙の断崖 / Fire Down Below (1997)
- 監督… フェリックス・エンリケス・アルカラ
- 共演… マーグ・ヘルゲンバーガー クリス・クリストファーソン ハリー・ディーン・スタントン
大スターのクリス・クリストファーソンには歌わせないで、セガールが歌ってます。やれやれ。几帳面に付き合ったハリー・ディーン・スタントンはきっといい人なのでしょう。女とお近づきになりたくてハチミツに手を出したりするセガール。
沈黙の陰謀 / The Patriot (1998)
- 監督… ディーン・セムラー
- 共演… ゲイラード・サーテイン L・Q・ジョーンズ カミーラ・ベル
前作同様あまり印象にない。タイトルのせいかも。とりあえずこの男にワインを出しちゃダメ。
マイ・ジャイアント / My Giant (1998)
- 監督… マイケル・レーマン
- 共演… ビリー・クリスタル ジョージ・マレサン キャスリーン・クインラン
セガールは主役しかやらない人。でも『エグゼクティブ デシジョン』『沈黙のテロリスト』とこれは例外。セガールは後半ちょろっと出てきます。登場時間は『エグゼク〜』とどっこいか。主人公(クリスタル)の息子が電話でセガールを挑発するんだが、その子の言うことがいちいち的を射ているので笑えます。
セガールがゲスト出演している云々は切り離しても心温まるコメディとしてなかなかの映画です。嘘はいけないことだけど、人を傷つけないための嘘なら許せる。無茶な化粧をしたキャスリーン・クインランが静かに胸を打ちます。
DENGEKI 電撃 / Exit Wounds (2001)
- 監督… アンジェイ・バートコウィアク
- 共演… DMX アンソニー・アンダーソン トム・アーノルド
興行的価値が下り坂にあったセガールだが、人気ラッパーに便乗するような塩梅でセガール映画史上最高のヒットを叩き出した話題作。沈黙の何たらというタイトルを打ち破った斬新で摩訶不思議な邦題も素晴らしい新世紀アクションの決定版。
何より驚きなのはワンマン・アクション専門だったセガールが、大勢の仲間と共に悪と闘うこと。団体戦です。ボコスカウォーズです。IT長者とその付き人、テレビ番組の変態司会者、正義感の強い相棒、かつてベトナムで鳴らした上司、色っぽい女署長…これらクセ者たちを束ねて巨悪を追うセガールはハワード・ホークス映画のジョン・ウェインのよう。相手はもはや定番メニューとも言える警察内部の腐食、汚れた警官たちです。
個性あふれる仲間たちにも几帳面に見せ場があり、このあたりが従来のセガール映画とひと味ちがいます。白い粉にまみれたDMXを見て『1941』のフランク・マクレーを思い出してしまった。
ところでバイクのスタントマン、もちっと似とる人おらんかったんか?
沈黙のテロリスト / Ticker (2001)
- 監督… アルバート・ピュン
- 共演… トム・サイズモア デニス・ホッパー ジェイミー・プレスリー
せっかく『DENGEKI 電撃』で上昇気流に乗りかけたのに、次に組んだのがよりによってピュンかよ!と叱責したくなるしょーもない映画です。ここに挙げた全作品の中で、いちばんつまらないです。主役じゃないのがせめてもの救いか。
後半、予想通り爆弾処理の専門を大きく外れるわけですが、せっかくセガール呼んだんだからちっとはバトらせよう、と言わんばかりに現実感よりも"Bな欲求"を優先させるところがピュンのピュンたるゆえんでしょうか。
奪還 DAKKAN アルカトラズ / Half Past Dead (2002)
- 監督… ドン・マイケル・ポール
- 共演… モリス・チェスナット ニア・ピープルズ クラウディア・クリスチャン
セガールの映画をひたすら見ていれば、この人プライベートの時も性格悪いんじゃないか、と誰もが思います。しかし、何度か一緒に仕事をする映画人がいるのも事実。モリス・チェスナットは『暴走特急』で共演済み。本当にイヤな奴だったら、また一緒にやろうなんて思わないだろうから、素顔のセガールはもしかしたらナイスガイなのかもしれません。信じられんけど。
かつて『ヒドゥン』でストリッパーを演じて当時幼少だった頑是無い俺の股間に火をつけたクラウディア・クリスチャンがたっぷり老けました。もう使えません。
ところで裏切者は必ず殺すのが組織の掟だと思うのですが、この結末にはオモイッキリ鼻白みます。
撃鉄 GEKITETZ ワルシャワの標的 / The Foreigner (2003)
- 監督… マイケル・オブロウィッツ
- 共演… アンナ・ルイーズ・プロウマン マックス・ライアン ジェフリー・ピアース
警察官、捜査官、軍人(含コック)などを演じて大量殺戮を続けてきたセガールだが、いわゆるコントラクト・キラー、つまり金で雇われて仕事する『メカニック』的な殺し屋を演じたのはこれが初めて。妙に違和感がある。ヨーロッパの空気のせいかも。
これで非情に殺しまくってたら「何だ、いつものセガールじゃん」となるところなのでそのへん捻ってあり後半はちょっと情が絡んできます。しかしあまりにも退屈。これなら普段通りの殺人マシーンでいてくれた方がどれだけ楽しめたことか。
沈黙の標的 / Out for a Kill (2003)
- 監督… マイケル・オブロウィッツ
- 共演… ミシェル・ゴー コーリー・ジョンソン ケビン・ダン
ビデオのパッケージにぶっといゴシック体でどどーんと「無敵」とあります。いいんですか無敵を売りにして。
内容はパッケージの惹句そのままに無敵です。何度か乱闘シーンがあるけど、一度だって劣勢になることもなければ1発だってパンチ・キックの類を頂戴することもない。全戦圧勝。ピンチになれよ!
捜査官を演じるミシェル・ゴー嬢がちょっとブスいような気がするんだが、こういう顔がハリウッドから見れば典型的オリエンタル美女なのかもしれません。
沈黙の聖戦 / Belly of the Beast (2003)
- 監督… チン・シウトン
- 共演… バイロン・マン モニカ・ロウ トム・ウー
タイでのロケを敢行して異国情緒たっぷり。かなりムチャなお話ですが、沈テロ→奪還→撃鉄→標的と見てくるとそれほど異常に思えないから慣れというか麻痺でしょう。
セガール拳の構えが多く登場するのでファンにはたまりません。でも格闘シーンでダブル使いまくりです。御大はキックさえ他人まかせです。
相棒のバイロン・マンがかっこいい。強い。役どころもおいしい。
さてボスキャラはムエタイの達人です。これがすごく強そう。ガチでやったらセガールは間違いなく秒殺されます。しかしセガールが勝つ、というストーリー上の必要条件を満たしつつ観客を楽しませようとするならもっと互角に近い闘いをする筈なのですが、もったいないくらいに呆気なく倒しちゃうところがやっぱりセガール。大好き。
クレメンタイン / Clementine (2004)
- 監督… キム・ドゥヨン
- 共演… イ・ドンジュン キム・ヘリ ウン・ソウ
韓国映画に"出稼ぎ"客演した作品。登場時間は5分程度か。
韓国のテコンドー者が主人公。テコンドー世界大会で惜敗し、刑事になったものの暴力沙汰でクビ、流れ着いたのが地下で開催される過酷な賭け試合の世界だった…というお話。ただしさすが韓国映画だけあって、色々な要素が絡まった濃い(ややこしい、とも言う)ストーリーが展開します。
やがて主人公は娘を人質にされ、ラスベガスでアメリカのチャンピオン、ジャックと闘うことを強要されます。ラスベガスの地下ファイトで無敵の強さを誇るジャックを演じるのが我らがセガールというわけ。
たとえ登場時間5分でも、セガール拳がエンジン全開だったら許せる!と思ってこの退屈で出来の悪い韓流ドラマに付き合いました。で、ラスト、肝心のセガール拳はというと、これがまた何とも…。例によってスタントを多用しつつも、御大だって多少は動いてくれたのに、中途半端なロングショットと顔アップの切り替えばっかりで撮り方がダメダメ。台無し。
男性が浮遊しない理由
ICHIGEKI 一撃 / Out of Reach (2004)
- 監督… レオン・ポーチ
- 共演… マット・シュルツ アグニェシュカ・ヴァグネル アイダ・ノヴァクスカ
ここ何作かアメリカ以外の異国を舞台に暴れているセガール、今回はワルシャワの人身売買組織を壊滅します。
カナダ国境付近で森の番人みたいなことをしているオッサンが、ポーランドの少女と文通するという設定がまず素晴らしいじゃないですか。そして手紙が途絶えるや、状況確認のために何の躊躇もなく遥か異国の現地へ赴くという行動力を発揮するセガール。
こういう展開でも俺のアタマの中では疑問符がまったく浮かばない。もうセガールの虜ですな。
とりあえず気になるのは少しずつながら確実に老けゆくセガールの顔。それほど遠い昔でもない『DENGEKI 電撃』の頃と今とでは、けっこう違います。巷ではよく「セガール太った」とか「アクションやるなら減量しろ」などと言われるけど、実際はそれほど増量してないでしょう。顔の老け方が見苦しいのと、アクションのキレが乏しくなったのが太ったような印象につながったのではないかな。まあたしかに『死の標的』の頃の"ホソナガ感"が消失したことは否めん。
順調に老けている、ということは逆に言うと、他のハリウッド・スターのようにシワ取り手術やコラーゲン注射に頼っているわけではないということで、そのへんは健康志向の強いセガールらしいですね。
ところで本作でセガールが着ている紺のスーツ、なんか安っぽいなあ。洋服の青山で買ったの?
イントゥ・ザ・サン / Into the Sun (2005)
- 監督… ミンク
- 共演… 大沢たかお ウィリアム・アサートン 伊武雅刀
もう最近はアメリカ本国を舞台にできなくなっちゃったんすかね。今回セガールが死体の山を築くのは何と日本です。
東京都知事候補暗殺事件を捜査するためにアメリカより派遣された捜査官(工作員)という役どころ。暗殺の背後にヤクザや蛇頭のシャブ覇権争いが絡んで大騒ぎってなもんです。
日本滞在経験のあるセガール、達者な日本語はそりゃ日常会話程度なら不自由しないレベルなのだろうけど、それと「日本語で演技する」ことはまるっきり別物なのだな、ということがよくわかります。日本側のスタッフも日本語コーチもセガール拳を恐れるあまりきちんと注意できなかったのでしょう。伊武雅刀との会話のシーンなんかもうダメダメ。注意してくれよ伊武。「日本をなめんじゃねえ」…ってそれじゃポール・マッカトニーの取り調べかあ。
案の定後半の方はストーリーがグダグダになっちゃって、都知事候補の殺しは何の為なのかさっぱりわからんまま敵のアジトに殴り込み。で、ボスキャラを楽勝でしばいておしまい。まあいつも通りなんだけどさ。
拾い物といえば悪役の大沢たかお。掛け値なしの大熱演です。きっと『ブラックレイン』の優作みたいに、これをハリウッド進出の橋頭堡にしようと頑張ったのでしょう。でも残念でした大沢さん、ハリウッドの関係者がセガール映画をまともに見ることほとんどないと思いますよ。
沈黙の追撃 / Submerged (2005)
- 監督… アンソニー・ヒコックス
- 共演… ヴィニー・ジョーンズ ゲイリー・ダニエルズ ウィリアム・ホープ
南米ウルグアイを舞台に、最強の精兵たちを率いるセガールが悪党をしばいてしばいてしばきまくります。
冒頭、一癖も二癖もありそうな精兵が何人も何人も登場するので「こんなに覚えきれねーよ!」と不安になるのですが、心配無用。精兵軍団はアッという間にバタバタと死んでいきセガールと2、3名が生き残るのみ。すぐに見通しがよくなります。
それに対し、悪役が複数登場してちょっとゴチャゴチャした印象。これをすっきりさせてもらいたい。
何より残念でならないのはゲイリー・ダニエルズ。
セガールとの対決はB級アクション映画ファンの夢。馬場・猪木戦にも匹敵するドリーム・マッチ。これを映画のクライマックスにもってくれば最高に盛り上がったはず。
それを中盤で、しかも例によって秒殺ですよ。
あーもったいない。
沈黙の脱獄 / Today You Die (2005)
- 監督… ドン・E・ファン・ル・ロイ
- 共演… トレッチ サラ・バクストン ケビン・タイ
泥棒という役どころは『沈黙の標的』で経験済みなのですが、さっぱり泥棒という感じがしないところがセガールらしい。
盗みに入った家の人に見つかり、捕まりそうになったら居直って皆殺しです。
これでは"畜生ばたらき"そのものです。さんざん殺しておいて義賊もクソもありませんぜ。
で、足を洗って運転手に転職したらさっそくハメられて逮捕、刑務所送り。怒ったセガールは刑務所を脱走してシャバへ戻り、裏切った奴等を全員殺します。
このタイトルだと脱獄がドラマのメインなのかと思いきや、じつにあっさりと脱獄します。今まで沢山の作品で強そうなボスキャラを楽々しばいてきたセガールだけあって、この何というか"楽勝イズム"が全編にあふれています。復讐の過程もミョーに簡単なんだよね。
撃鉄2 クリティカル・リミット / Black Dawn (2005)
- 監督… アレキサンダー・グルジンスキー
- 共演… タマラ・デイヴィス ジュリアン・ストーン ニコラス・ダヴィドフ
ここ数作、本国アメリカでは劇場公開してもらえなかったセガール作品ですが、どういうわけか日本では劇場で公開されていました。しかしその厚遇も、ついに終わるときが来てしまったのです。本作は劇場公開は見送られました。ビデオ映画という本来のカタチで、我が国に届けられてしまったのです。嗚呼。
単館ロードショーの度に銀座シネパトスに足を運んでいた几帳面な俺としては、たしかに悲しい。しかし遠い遠い銀座に行く必要がなくなったのでちょっとホッとしていたりするんだな正直なところ。
それくらい、最近のセガール映画に期待していないわけで、本作もそういう意味ではまったく予想を裏切らないつまらなさ。
チェチェンかどこかのテロリストがロサンゼルスで核爆発を目論むけどセガールが余裕で阻止する、というお話。内容はいつも通り、チンピラを殺しまくって、テロリストを殺しまくって、ダブルクロスもしっかり殺して…まあそんな感じっす。もちろん御大はまったくアクションをしません。スタント・ダブルの使用頻度は年々ウナギ上りです。
最近の映画にしては珍しいくらいスクリーン・プロセスがヘタクソや。いい脚本にも、いいスタッフにも、いい共演者にも恵まれないとハリウッド・スターはここまで堕ちてしまうものなのか?
沈黙の傭兵 / Mercenary for Justice (2006)
- 監督… ドン・E・ファン・ル・ロイ
- 共演… ルーク・ゴス ロジャー・グエンヴァー・スミス ジャクリーン・ロード
一度は劇場未公開の苦杯を嘗めたセガール主演作品が映画館に帰ってきました。といっても銀座シネパトスの単館公開。帰るべきところに帰ってきた、と言うべきか。
今回セガールの役どころは傭兵。アフリカのどこかでCIAの作戦任務を遂行中、傭兵仲間ラジオが敵兵に胸を撃ち抜かれます。ラジオはいまわの際に「妻と子をよろしく頼む」などと家族の世話をセガールに託してしまいます。
ラジオの妻子が人質にとられ、むりやり脱獄計画に参加させられるセガール。しかし大人しく言うことを聞くはずもなく、脱獄の舞台となったケープタウンに血の雨が降るのでした。
どうっていうことない話だし、親友の妻子を命がけで守る、という男泣きのツボを見事に外し、例によって大したアクションをするでもなく、もちろんピンチになるでもない、いつも通りのセガール映画でした。
せめてセガール拳で悪の親玉にトドメを刺してほしかった。いくら何でも爆殺はないだろう。お前それでもアクション俳優か。
沈黙の奪還 / Shadow Man (2006)
- 監督… ミヒャエル・ケウシュ
- 共演… エヴァ・ポープ スカイ・ベネット イメルダ・スタウントン
今回の舞台はルーマニアのブカレスト。細菌兵器の秘密を巡る陰謀で、娘を誘拐された元CIAが大暴れという役どころ。
細菌兵器の製法が記されたマイクロチップを、CIAとFSBが奪い合う構図。これにひと儲けを企んだルーマニアの警察が絡んできます。
しかし、やはりというか、セガールが三者それぞれ、皆殺しにしてしまいます。
ブカレストの方々で死体が山積みにされるほどの激しいバトルが繰り広げられるなか、セガールはもちろんのこと、誘拐された娘も最後までかすり傷ひとつ負いません。
しまいにゃよく頑張ったと我が子をねぎらい高価なプレゼントをする親バカっぷり。
みなさんご承知の通り、セガール映画というものはほとんどすべて、主人公のセガールがあまりにも強すぎるために「ああ主人公がやられるぅぅ」といったサスペンスは成立しません。
そこで脚本家はストーリーに緊張感をもたらすため、セガールの家族や、親しい人をピンチに陥れます。『暴走特急』で、姪っ子が人質にとられたりする、ああいうやつです。
とりわけ子供が誘拐されるというのは、発想の貧困な脚本家によってたびたび横行してまいりました。
これまでにも『ハード・トゥ・キル』『沈黙の聖戦』『ICHIGEKI 一撃』で子供が連れ去られています。『一撃』は実の子ではなくてペンパルですけど。
どの場合も、誘拐された子供はほぼ無傷で救出します。セガールもほとんど無傷です。ただし救出の過程でたいていは善玉(相棒や協力者)が死ぬか重傷を負います。
なお誘拐に関わった悪党は全員死亡、と言いたいところですが唯一『ハード・トゥ・キル』だけは黒幕が逮捕されていましたね。
私はあなたと私はあなたを必要としないすべてを愛する
沈黙の激突 / Attack Force (2006)
- 監督… ミヒャエル・ケウシュ
- 共演… リサ・ラヴブランド デヴィッド・ケネディ ダニー・ウェッブ
「オヤジの映画祭」第2弾。オヤジ、超人に挑む。
米軍と協力関係にある化学工場で極秘に開発された麻薬。これを注射すると、戦闘能力が格段に向上して疲労も恐怖も感じない理想の戦士になれるはずだった…。
今回のセガールは、この麻薬の実験で部下を失った軍人役。スポーツ刈りの相棒と共に、開発者や悪用をもくろむ連中を皆殺しにします。
ストーリーは『沈黙の追撃』に似ていますね。同じようなネタの使い回しはまあ、いいとして、この映画の出来はあまりにもひどい。シャレになってないです。完全に破綻しています。話があちこちほころんでいるのに、繕おうという意思さえ感じられない。
麻薬の開発者がトチ狂って上水道に麻薬をブチ込みます。この水を飲んだ人はみんな狂戦士になってしまう、というナイスな設定はもっと面白く出来たろう。今時のゾンビ映画っぽい流れに持っていくことだってできたと思う。数百人のゾンビ戦士vsセガール、そんなやつです。
しかしながら、やはりというか、わざわざそんなことしません。数人の狂戦士を楽々しばいて、悪玉を苦もなく皆殺し。いつも通りです。
見終わって、映画館のトイレで用足ししていたら、となりで小便していたオッサンが誰に言うでもなく「よくわかんねえ映画だったなぁ」とつぶやいてました。すると別のオッサンが「あのクスリは何だったの?」「バイアグラじゃないの」など、見ず知らずのオッサン同士でションベンしながらの意見交換会みたいになってしもた。オヤジの映画祭ならではの光景ですな。
沈黙のステルス / Flight of Fury (2007)
- 監督… ミヒャエル・ケウシュ
- 共演… スティーヴ・トゥーサン マーク・ベーズリー アンガス・マッキネス
「オヤジの映画祭」第1弾。オヤジ、空に挑む。
最新戦闘機がテスト飛行中に消えた。パイロットがアフガニスタンのテロリストのところへ売りに飛んで行ってしまったのだ。それを奪回するべくアフガニスタンに乗り込むのが今回のセガール。
まさかアフガニスタンでロケなんかできるわけないし、またどこか東欧ロケでもしたのでしょう。アフガニスタンの場面はアンバー系のフィルターを使って(あるいはデジタル処理したのかもしれん)画面の色をちょっと落としてます。雰囲気を醸し出そうとする努力は認めたいところなのですが、『エレメント・オブ・クライム』のような上品な効果はまったくなくて、ただただ貧相なだけ。ああB級って感じ。
戦闘機のシーンはやはりというかどこかのフィルムの使い回し。B級スカイアクションならよくあること。俺は航空機や兵器に詳しくないのでわかんないけど、たぶん詳しい人が見たらツッコミどころがいっぱいあるんだろうな。スカイアクションのスタイルを装いつつ、内容はいつも通りのセガール映画なので細かいことはどうでもいい。つーか気にするだけムダ。
もちろん今回もまったくピンチになりません。奪回する戦闘機の格納庫には60人の傭兵軍団が待ち構えているという設定で、アクションの見せ場はこれしかないっしょ!という最重要なクライマックスなのに、淡々と殺して奪回しちゃう。楽勝。まあいつものことだけどな。
沈黙の報復 / Urban Justice (2007)
- 監督… ドン・E・ファン・ル・ロイ
- 共演… カーク・B・R・ウォラー エディ・グリフィン ダニー・トレホ
「オヤジの映画祭」第3弾。オヤジ、死に挑む。
ギャングに殺された警官の父親が、息子の仇を討つためにロサンゼルスの危険地帯に下宿して犯人を捜す。
色々な意味で斬新な出来になっています。
これまでにも父親役は何度か演じてきましたし、子供が人質に取られてピーンチ!という状況もありました。
ですが今回は、映画が始まっていきなり若い警官が射殺されます。そして葬儀の場に現れた父親が何とセガール、というイントロ。わくわくしますな。血の雨が降りそうで。
息子が殺された現場の近くに下宿して、ギャングの情報を暴力的に集めていき、仇の正体に迫ります。このプロセスで、カーチェイスがあったり銃撃戦があったりとアクションの見せ場がいくつか。驚いたことに、近作にしては珍しく御大がダブルをあまり使わず格闘シーンに臨んでいます。ここまで蹴りを多用するのは見たことない。
さて、何よりもビックリしたのは、下宿屋のおかみさんが復讐に燃えるセガールをたしなめるところ。報復が報復を呼ぶ。報復の連鎖の恐ろしさ。イラクでアメリカの若者たちが命を落とし続けていることに、もはや無関心でいられなくなったのでしょう。セガール映画の分際で。
もちろんおかみさんに何を言われようとも復讐を止めるわけがありません。だいいち観客が納得しないでしょう。
クライマックスは言わずもがな、マシンガンで、拳銃で、ナイフで、素手で、殺して殺して殺しまくり。40人くらい殺してるんじゃないかな。
「オヤジの映画際」の3作品はいずれも水準以下の出来ではありますが、その中では本作がいちばんマシ。これを映画祭のトリに据えたのは正しい判断と言えます。
弾突 DANTOTSU / Pistol Whipped (2008)
- 監督… ロエヌ・レーヌ
- 共演… ポール・カルデロン リディア・ジョーダン ランス・ヘンリクセン
不祥事で警察を追われた男がギャンブルにハマり、借金を重ねる。だが返すカネはない。そこへ借金の肩代わりを申し出る者がいた。借金チャラの条件、それは街を牛耳るギャングを殺すこと…。
元警官で飲んだくれのギャンブル狂、それが今回のセガールの役どころです。
借金返済のため仕方なく殺しを引き受けたわりには、やけに嬉しそうです。標的のギャングさえ殺せばそれでいいものを、一緒にいたギャングの手下数人もためらうことなくバンバン殺しまくっています。さすがセガール。
殺しの依頼をこなしていくうちに、自分が警察を追われる原因となった不祥事の真犯人が発覚し、クライマックスは墓場で銃撃戦。
この銃撃戦が、セガール映画としてはちょっと物足りない。セガール軍3名、敵軍7、8名。こんな少人数なのにエンエン撃ち合っています。往時のセガールならたった数人の敵なんざ、ひとりで秒殺してそうなもんだ。
日本のヤクザ関係だったら義理場(墓場)で銃撃戦なんて絶対にやってはいけないことなんだけど、アメ公にはそんなの通用しないんですね。
雷神 RAIJIN / Kill Switch (2008)
- 監督… ジェフ・キング
- 共演… マイケル・フィリポウィッチ マーク・コリー アイザック・ヘイズ
ここしばらくシネパトスのみの単館公開が続いたセガール作品であったが、久しぶり、『イントゥ・ザ・サン』以来3年ぶりに、全国一斉ロードショーに返り咲いた。といってもかなりしょぼい規模での公開です。まあセガールですから。
今回のセガールはメンフィス市警。連続猟奇殺人を追う刑事です。『グリマーマン』で経験済みとはいえ、ギャングや麻薬組織、武器商人、汚職警官や政治家といった"いつもの相手"とは勝手が違うので、ここ数年のワンパターンドラマを脱却するんじゃないか、という期待に胸をふくらませ…るわけないじゃん。
一般的に、このジャンルでストーリーを盛り上げるには、なかなか尻尾を出さないサイコキラーと、犯行現場のメッセージを解読して犯人像に一歩々々迫る捜査陣との間で繰りひろげられる、知的で息づまる攻防がカナメになります。
もちろん本作もそれを狙っていたことは明白です。
やれDNA鑑定がどうしたとか、検死結果がどうとか、プロファイリングが云々など、そういうものを話に盛り込んで、お約束のFBIと地元警察の対立を絡めつつ、サイコキラーの凶行を食い止める。話の本筋は悪くない。
しかしツメが甘いんだよな。
犯行予告のメッセージとなる謎解きがとってつけたようなどうでもいいもので、当然それだけでは間がもたない。じゃあ乱闘と銃撃戦でも入れようか。
それでもスカスカ。ならシリアルキラーをもうひとり投入すればいいじゃん。
万事がそんなノリの、行き当たりばったり的なひどい脚本。誰が書いたんだよ!
クレジットを見たら「脚本:スティーブン・セガール」だって。あーあ。
本作で面白かったのは、序盤、飲み屋の乱闘(ストーリー上の必然性がまったくない!)で、おっさん2人にストンピングされまくるセガール。こんなやられっぷりはきわめて珍しい。おまけにパイプでボコボコ殴られてました。もちろんその直後におっさん2人は半殺しにされます。
あと、意味がまったくわからないラストで見せるセガールの助平な笑顔がたまらんです。
鉄板ニュース伝説 / The Onion News (2008)
- 監督… ジェームズ・クライナー
- 共演… レン・キャリオー サラ・マクエリゴット トム・ライト
ぶっとんだニュース番組を通して、マスコミや世相を皮肉たっぷりにぶった斬るパロディ映画。要するに『ロボコップ』におけるニュース番組のシーンを悪ノリで固めて1本、みたいな作品です。劇場未公開。本国アメリカでもビデオ映画だったみたい。
セガールは劇中の映画『マル禁パンチャー』でタイトルロールを演じてます。まるで自身をパロっているかのような役どころ。
出番は意外と多く、ほどほどに見せ場を与えられています。ま、そうでなきゃ出ませんわな。
映画そのものはときどきプッと笑ってしまうような場面がいくつかあるものの、大ネタも小ネタも総じて面白くありません。モデルチェンジの度にパソコンの買い替えを余儀なくされるおじさんの話はけっこう面白かったかな。
障害者や同性愛者、それに人種問題までネタにしてしまうなんてさすがアメリカ。日本でこんなネタやったらたちどころに火あぶりでしょう。
斬撃 ZANGEKI / Against the Dark (2009)
- 監督… リチャード・クルード
- 共演… タノアイ・リード リンデン・アシュビー キース・デビッド
感染すると他人の血を吸いたくなる、というヘンテコなウィルスが大流行しているムチャクチャな設定。とりあえずこういうことにしておけば、今風のゾンビ映画のフォーマットでセガールがゾンビもどき(映画では感染者ということになっている)を斬りまくる作品が一丁あがりだぞウッシッシ。そういう作り手の安易な姿勢が随所に見られます。
セガールが演じるのはゾンビをしばくハンター。
わらわら襲ってくるゾンビを刀で右に左に斬りまくります。
ストーリーはあってないようなもの。病院に閉じ込められた生存者がいて、しかし病院は夜明けに軍が空爆をすることになっている。ゾンビだらけの病院から、夜明けまでに脱出できるのか?とこんな感じ。ハッキリ言ってどうでもいい。
どれだけ巨大な病院だろうと、外に出るのに何時間もかかるなんてあるわけない。おまけに電力が供給されなくなると外に出られなくなるなんて、そんな病院ないってば。
かようにストーリーの粗はあげつらったらキリがない。とにかくこんなヘロヘロのストーリーは、セガールがゾンビを斬りまくる映画のお膳立てと割り切っていちいち細かいことを気にせず素直にアクションを楽しみましょう、と言いたいところなのですがそのアクションもまるっきりダメダメなんだなこれが。
相棒のハンター(ラテン系のヒゲ)の方がアクションはきちんとやってました。このヒゲはちゃんと動ける人のようです。見せます。
久しぶりにキース・デビッドと共演するのかと思いきや、セガールと顔を合わせる場面はなし。何もかもダメダメな映画だな。
沈黙の逆襲 / The Keeper (2009)
- 監督… キオニ・ワックスマン
- 共演… ルース・レインズ ステフ・デュヴァル リーズル・カーステンス
沈黙のナントカ、というタイトルは多すぎて、もう何が何だかわからなくなってきた。
今回の約どころはロス市警を辞めた元警官。親友のピンチを救うため、テキサスに乗り込んで大暴れします。
親友の娘が誘拐されそうになり、ボディガードをすることに。
この娘がすごい。狙われる身でありながら、毎夜のようにナイトクラブに行って踊ってパーティです。
まあセガールのことですので、いくらボディガードとはいえエンダーーーーー♪な展開にはなることなく、娘を襲いに来る悪党を45口径で撃ちまくり、ナイフで刺しまくり、骨を折ったり喉を潰したりと残虐の限りを尽くします。
うすっぺらい話ではありますが、それなりにB級アクションのツボを押さえた堅実な作り。娘の彼氏のヘタレっぷりとか。ここ数作、水準以下の作品が続いたセガールにしては、それなりに見られるシロモノになっております。
沈黙の鎮魂歌 / Driven to Kill (2009)
- 監督… ジェフ・キング
- 共演… ドミトリー・チェポヴェツキー イゴール・ジジキン ロバート・ウィスデン
話題作りのために邦題を公募しました。『沈黙の××』の××部分を映画好きのみなさんに募り、日本語の達者なセガール自ら選んで決定する、というアングル。
しかし「沈黙の」が固定されている、というのが何だかなあ。でも「沈黙の」がないとセガール作品としてマーケットへのアピールが難しいのは事実。思い入れだけでは商売にならない業界人のジレンマを、われわれ一般大衆も公募というカタチで味わえるわけです。
さて今回のセガールの役どころは、元ロシアン・マフィアの作家。別れた妻と娘が襲われ、怒り心頭。犯人を捜し回ってあちこちに死体の山を築き上げます。まあいつも通りですな。
娘と結婚するはずだった青年、ステファン。ワンパターンのセガール映画に、ほんのちょっとだけ新味が加わってます。このステファン、ロシアン・マフィアの大物の息子で、悪事から足を洗おうとしていたのですが、婚約者を襲われ、セガールの犯人探しに同行します(させられます)。
ステファン君、暴れ回るセガールの後ろにくっついているだけで、ほとんど何もしません。できません。ふがいない野郎だ、と思う反面、フツーの人間がセガールの殺人道に同行させられても、こうなるしかないんじゃないかと。
悪い家族と縁を切り、まっとうに生きようとするチンケな青年の、チンケな志。
セガールが大量虐殺の果てに守り抜いたのは、この小さな、しかし正しい願いです。本作のテーマはこのあたりにあるような気がします。
ステファン青年を演じたドミトリー・チェポヴェツキーの、頼りなげで複雑な面構えはなかなか味わいがあります。プロレスラーの葛西純にちょっと似てるような…。
セガールは今回もピンチになりません。チンピラ2人に銃を突きつけられても、ちっとも劣勢といった雰囲気を感じないし。最後まで圧勝。
敵の親玉と格闘するとき、ほんの一瞬ニコッと笑顔になります。ああ、殺人鬼のスイッチが入ったなと。セガール・ファンにはたまらない瞬間です。
沈黙の鉄拳 / A Dangerous Man (2009)
- 監督… キオニ・ワックスマン
- 共演… バイロン・マン ジェシー・ハッチ ヴィタリー・クラフチェンコ
『沈黙の鎮魂歌』が劇場未公開だったので「もはや劇場の大スクリーンでお会いすることはないのでは…」と危惧しておりました。しかしあの男は不死身です。帰って参りました。シネパトス単館だけど。
今回セガールが演じるのは元陸軍特殊部隊の殺人マシーン。ブタ箱から出たものの家族はすでになく、もちろん仕事もなく、ひょんなことから事件に巻き込まれて暴れる無職中年の役です。
その事件というのが、中国人民軍の麻薬ビジネスに関わる重要人物(帳簿係)の身柄争奪戦。これにロシアン・マフィアや地元警察が絡んでドンパチになるわけ。
中国人民軍の大佐をバイロン・マンが演じます。『沈黙の聖戦』の相棒役で、キレのあるアクション・シーンを見せてくれたあの人です。今回は敵役、しかもボスキャラ。激しい格闘シーンを期待しちゃいますよね。しかし、やはりというか相手がセガールなので互角というわけにもいかず、一方的にシメられてます。
面白かったのはヴィタリー・クラフチェンコという人が演じたロシアン・マフィアの親分。尋問に来た警察署長に「ロシアでは警官の口でファックする」「アメリカの刑務所はロシア人にとっちゃ天国だ」と名セリフを吐き、金玉チョン切るぞと凄んで追い返してしまいます。
権力にシッポを振らない硬骨漢として描かれており、同じロシアン・マフィアでも前作『沈黙の鎮魂歌』とは大違い。義理人情に厚いこの親分のおかげで、うすっぺらいドラマにほんのすこしだけ人間味を感じることができました。
マチェーテ / Machete (2010)
- 監督… イーサン・マニキス ロバート・ロドリゲス
- 共演… ダニー・トレホ ジェシカ・アルバ ロバート・デ・ニーロ
ダニー・トレホとは3度目の共演。トレホの主演作に悪役として出演しています。セガールはそう易々とやられ役をやる人ではありません。もしかしたら、共演を重ねるうちにトレホと仲良くなって、友人の主演作に花を添えるため、やられ役を引き受けることになったのかもしれません。ああ美しい友情。
映画の内容は単純明快。麻薬王に妻子を殺され、テキサスに流れ着いたメキシコの元警官マチェーテが、議員暗殺の陰謀に巻き込まれます。で、やはりというか陰謀の黒幕は麻薬王で、最後は対決してしばきます。ストーリーはB級アクションにありがちですな。
共演陣はなかなか豪華。敵役はセガールの他、ロバート・デ・ニーロ、ジェフ・フェイヒーにドン・ジョンソン。その他、チーチ・マリンやトム・サビーニ先生、ジェシカ・アルバなど、同時期の『エクスペンダブルズ』に負けず劣らずの(消費期限切れ)スター級がぞろぞろ。
セガールは主人公マチェーテの妻子を殺した麻薬王の役。最後の決闘でマチェーテに腹を刺されて死にます。これだけのキャストの中にあって、比較的大きな見せ場をもらっています。日本にいたことが災いしたのか、切腹について中途半端な知識があったようで、腹に刺さったナタを自らかき回して切腹ごっこする、わけわからん往生です。
ゴアシーンとアクションの連打で退屈はしないものの、後半はストーリーが雑になり、改造車がわんさか行進してもイマイチ乗れない。最後の闘いはもっと盛り上げることもできたはずで、セガール・ファンならずともちょっと残念な出来と言えます。
かつて、名優の誉れを恣にしたロバート・デ・ニーロは、殺到したオファーから脚本を厳選して出演作を決めることでよく知られていました。デ・ニーロが出演すれば、それはとりもなおさずマトモな、ふるいにかけられた脚本だったわけです。そしてひとたび出演を決めたら、徹底的なリサーチをしてみっちり役作りをしました。『タクシードライバー』のときは実際にタクシーを流し、『ニューヨーク・ニューヨーク』ではサックスの猛練習、『レイジング・ブル』に至ってはラモッタ本人にボクシングを習ったほどです。現代最高の名優と称揚されました。
それがここ数年のデ・ニーロさんはどうしてしまったのでしょう。クソみたいな映画に出まくってますね。この『マチェーテ』にしたって、昔のデ・ニーロならまず出演しなかったでしょう。ジャンル的にありえなかった。それが今はこうしてセガールと共演してしまう。こんな時代になろうとは。
沈黙の復讐 / Born to Raise Hell (2010)
- 監督… ラウロ・チャートランド
- 共演… ダン・バダラウ ダーレン・シャラヴィ ニール・マーク
ここ数作、アメリカが舞台の話が多かったセガール。今回はルーマニアが舞台です。戻るべきところに戻って来たと言うべきでしょうか…。
アメリカから出向してブカレストの麻薬犯罪を担当する捜査官が今回の役どころ。ロシアからやって来た元スペツナズの麻薬元締めと地元のチンピラの関係がこじれてしまい、殺し合いに発展して死体の山が積み上がります。
話の軸は元スペツナズとチンピラの抗争なので、捜査をするセガールはどうしても後追いの形になってしまいます。そこで脚本家はしょっぱい手段を講じました。元スペツナズとセガールをくっつけます。敵の敵は味方というやつ。ふたりで仲良くチンピラを成敗しましたとさ。
今回の脚本家も恐竜並みの脳ミソだなあ、と思ったら脚本=スティーブン・セガールときたもんだ。セガールが今までに出演してきた作品にヒントを得たのかもしれません。ロシア人との友情は『沈黙の鉄拳』だし、無軌道なチンピラは『イントゥ・ザ・サン』の大沢たかおを想起させます。
つまらなくはないけど、それほど面白くもない。近年のセガール映画では平均か、それよりちょっと下くらいの出来。
クライマックス、チンピラを追い詰めたセガールは武器を捨て、素手で闘いを挑みます。さすが、観客が求めるものをよくわかっていらっしゃる。
もちろん一方的に痛めつけて殺して終了。ピンチのピの字もありゃしません。
沈黙の宿命 / True Justice: Deadly Crossing (2010)
- 監督… キオニ・ワックスマン
- 共演… ミーガン・オリー サラ・リンド ギル・ベロウズ
本国アメリカでは劇場未公開のビデオ映画専門スターだったセガールが、いよいよ本格テレビシリーズに進出します。とうとうお茶の間にまで来てしまいました。
とはいえ『白バイ野郎ジョン&パンチ』や『冒険野郎マクガイバー』のようなお茶の間の人気者になれるのでしょうかこの人は。ひと口にテレビシリーズといっても、ピンからキリまでありそうですし。しかもカナダ製ですよこれ。
なおわが国では本シリーズの初回が劇場公開されました。もちろん銀座シネパトスのみの単館公開です。どうやらこれ以後のシリーズもシネパトスで上映するらしい。どんだけセガールに優しいんだシネパトスよ。
今回のセガールはシアトル市警特別捜査隊の隊長。個性あふれる部下を率いて凶悪犯罪を日夜追いかけます。
シアトルに大量のヘロインが流通しはじめた。末端の売人を捕えて吐かせたところ、ロシア人の組織がシアトルへの進出を企てているらしい。そして血も涙もない凶暴なロシアン・マフィアをセガールと部下が叩き潰します。
身体を張った捜査で部下たちは生傷が絶えないのに、上司のセガールは傷ひとつ負いません。必死で逃げようとするロシアン・マフィアの親玉(演じるのはカナダの名優ギル・ベロウズ)を追いかけ回し、脚をへし折ります。
今までのセガールは、たとえ警官役であろうと、クライマックスで敵の親玉を殺すのが通常のパターンでした。ところが今回は、生け捕りです。大怪我させて逮捕します。もしかしたら虐殺ヒーローはお茶の間に歓迎されないといった、テレビシリーズ特有の事情があるのかもしれません。
その一点を除けば、ここ数年のセガール映画と大差ない内容です。監督はセガールの御用監督キオニ・ワックスマンだし。
隊員を演じた女優はふたりとも美人です。でも脱ぎを期待しちゃダメ。テレビシリーズですからね。
0 コメント:
コメントを投稿